て工場を飛び出した。彼等はこんな晩、工場内の宿舎に帰って蒲団《ふとん》を被《かぶ》って寝る方が恐ろしかった。皆云いあわせたように、隣り村の居酒屋へ、夜明かしの酒宴《さかもり》にでかけていった。
 後に残されたのは、工場主の赤沢博士と、青谷二郎《あおやじろう》という青年技師と、それから二人の門衛だけになった。その外に、構内別館――そこは赤沢博士の住居になっていた――に博士夫人|珠江子《たまえこ》という、博士とは父娘《おやこ》にしかみえぬ若作り婦人がたった一人閉じ籠っていた。
 青谷技師も午後八時にはいつものように、トラックを運転して帰っていった。赤沢博士の自室には、まだ永く灯りがついていた。しかし十時半になると、その灯りも消えて、本館の方は全く暗闇の中に沈んでしまった。門衛も小屋の中に引込《ひきこ》んでしまい、あとは西風がわが者顔に、不気味な音をたてて硝子《ガラス》戸や柵を揺すぶっていた。湖畔の悪魔は、西風に乗って、また帰ってきたのであろうか。
 その夜も余程更けた。
 この空気工場から国道を西へ一キロメートルばかり行ったところに、例の庄内村《しょうないむら》というのがある。そこには村で
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