人間灰
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)右足湖畔《うそくこはん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)博士夫人|珠江子《たまえこ》という

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)青谷技師以外の[#「以外の」は底本では「意外の」]者
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 赤沢博士の経営する空気工場は海抜一千三百メートルの高原にある右足湖畔《うそくこはん》に建っていた。この空気工場では、三年ほどの間に雇人《やといにん》がつぎつぎに六人も、奇怪なる失踪《しっそう》をした。そして今に至るも、誰一人として帰って来なかった。
 ずいぶん永いことになるので、多分もう誰も生きていないだろうと云われているが、ここに一つの不思議な噂があった。それは彼の雇人が失踪する日には、必ず強い西風が吹くというのである、だから雇人たちは、西風を極度に恐れた。
 丁度この話の始まる日も、晩秋の高原一帯に風速十メートル内外の大西風が吹き始めたから、雇人たちは、素破《すわ》こそとばかり、恐怖の色を浮べた。夜になると、彼等は後始末もそこそこに、一団ずつになっ
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