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△蒲団《ふとん》を出す音。母親は襖をしめて、もとの茶の間にかえってどさりと座る。
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母親 本当に道夫に代ってやりたいわねえ、あたしなんかちっとも睡かないわ……さあ、もっと先を勉強しておきましょう。道夫がどの位勉強したかを験《ため》すのは、あたしが道夫以上に、何でも覚えてなくちゃいけないんだわ、一人子《ひとりっこ》の母親って、誰でもこんなにやきもきするものかしら。(気分をかえて)えー斧足類は蛤に蜆に牡蠣《かき》、あさり、あげまき、帆立貝《ほたてがい》、赤貝、ばか貝。
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△音響、格子ががらがらとあく。(父親の帰宅)
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父親 なんだ。赤貝にばか貝か大変な御馳走だな。しかし、ばか貝は止《よ》してくれ。青柳《あおやぎ》という粋《すい》な名があるじゃないか。
母親 お帰りなさいまし。あなた、御飯はもうお済みになりましたの。
父親 どういたしまして。これから洋服をぬいで、そこの長火鉢《ながひばち》の前で御馳走になるてえ順序でござんす。
母親 まあ……。
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