かった、AマイナスBとAプラスBの積《せき》だ!
級長 蝦原えらい! それでいいんだ。こんどはもう忘れちゃ駄目だよ、ほらキャラメルとチョコレートをやるよ。
蝦原 どうもありがとう(と早速《さっそく》ホオばり、口をもごもごさせながら)ああうまい、ホオペタがおっこちそうだ。
級長 公式を思いだしたら、問題を早く解いてしまいなよ。ほらここだ。AマイナスBがこっちにもあるから、AマイナスBでくくれるじゃないか。
蝦原 ああ本当だ。AマイナスBでくくってあとは、えーと3Aプラス2Bと、AプラスBか、ねえ、これから先、どうするの。
級長 いやんなっちゃうね。それで出来たんだよ、それが答なんだよ。
蝦原 えっこれが答かい、なあんだ。訳はねえや。うふふふ、代数ってなかなか面白いもんだねえ。
級長 あははは、蝦原の奴代数が面白いっていったぞ。あははは。
生徒 代数よりキャラメルの方がうまいだろう。
級長 えっへん、これは誠に由々しき一大事じゃ、勉強組合ばんざいだ。
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生徒大勢、あはははと朗《ほがら》かに笑う。
街の遠くから、出征兵士《しゅっせいへいし》を送る「天に代《かわ》りて」の合唱近づき来る。
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]……―幕―……
第二景 夢の中の模擬試験《もぎしけん》
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音楽。夢の曲(トロイメライの如く)
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受験生青木 はて見なれない所だなあ。どうして僕は今ごろ、こんな野原を歩いているんだろうねえ……おや、変だなあ。とつぜん目の前に、立て看板が出たよ。なんだ? 模擬試験場《もぎしけんじょう》と書いてある。模擬試験なら、受けると自信がつくから受けてもいいんだが、どこにあるんだろうね。
女教師 もしもし青木さんここへいらっしゃい。
青木 はあ。……いつの間に先生はお出でになったんですか。ああ机も腰かけもありますね。ああ、わかりました。これが模擬試験場なんですね。
女教 さあ皆さん、揃いましたから問題を出します、ようございますか。或るところに卵売りのお婆さんがありましてねえ、若干個《じゃっかんこ》籠《かご》に入れて、町へ売りに行きましたの。最初の家では、卵の半数と一個の半分とを売りました。次の家では、残りの卵の半数と一個の半分とを売りました。それから最後の家で、残りの卵の半数と、一個の半分とを売って、それで全部売りつくしました。最初籠に入れてあった卵は何個だったでしょうか。但し、この卵売は卵を実際半分に割ったりしないで、うまく三軒の家に完全な卵を売りました。これを代数で解いて下さい。
青木 先生もう一度いって下さい。
女教 はい、もう一度申します……卵売りのお婆さんが卵を若干個、籠に入れて、町へ売りに行きました。最初の家では卵の半数と一個の半分とを売り、次の家では残りの卵の半数と一個の半分とを売って、最後の家で、残りの卵の半数と、一個の半分を売ってそれで全部売りつくしました。最初、籠にあった卵は何個だったでしょうか。但し卵は、いつも割らずに売りました。これを代数で解いてください。
青木 やあ面白いなあ。まるでナゾナゾの問題だ。これを代数で解けとは、ますます面白い。まず卵の総数をXと置いて、それから……。
女受験生房子 はい先生、できました。
青木 あれっ、もう出来た子がいるよ。
女教 はい房子《ふさこ》さん、出来たんですね。どういう式を立てたか、そこで読みあげてごらんなさい。
房子 はい。まず最初の家で売った卵の数は、Xを二で割って、そこへプラス二分の一個です。これをまとめますと、分母が二、分子がXプラス一となります。仮りにこれをAと置きます。
女教 Aとおくのですか、それから……。
房子 さて、次の家で売った卵の数は残りの卵の半数ですから、XマイナスAを二で割ったものと、そこへ二分の一個を足したものです。このうちAは前に出ていますから、それを代入しまして、結局第二番目の家で売った数は分母が四、分子がXプラス一となります。これをBと置きます。
女教 それまではよろしい、それから……。
房子 最後の家で売った卵の数は、XマイナスAマイナスB、これを二で割ったものと、そこへ二分の一個を足したものですから、これは分母が八、分子がXプラス一となります。これをCと置きます。
女教 それで答は?
房子 Xイコール、AプラスBプラスCですからこれを解《と》いてXは七個となります。
女教 御名算《ごめいさん》です。はじめ籠の中にあった卵は七個でした。
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△音響、パチパチと大勢の拍手
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青木 どうも驚いた。子供のくせに随分
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