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窓を閉る音。
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生徒 あっ、出来た。これでいいんだろう。Xは5でYは3、Zは12[#「12」は縦中横]さ。
級長 ええ、ちょっとかしてごらん、Xは5、Yは3で、Z……12[#「12」は縦中横]か。よし答は合《あ》っている。ほら、キャラメル一個だ。
生徒 (よろこんで)ああサンキュウ、これでキャラメルは五ツ目だ。(と、口の中へ放りこんでピチャピチャなめる)やあ蝦原《えびはら》が泣いてらあ、蝦原、出来ないのか。
蝦原 (くすんと鼻をすすり)なんべんやっても出来ねえ。
生徒 ちぇっ、ちょっと見せてごらんよ。あれ、まだ二番じゃないか。
蝦原 ああ、そうだよ。僕なんか、まだキャラメルを一個しか喰べていないんだ。
生徒 そりゃ仕方ないよ。だってまだ一題しきゃ出来てないんだもの。今日|代数《だいすう》の時間、君は飛行機の絵ばかり書いていたじゃないか、あれじゃ駄目だよ。
蝦原 なにが駄目だい。
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級長の足音。
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級長 ああっ、君たち喧嘩なんかしちゃいけないよ。
生徒 ねえ蝦原《えびはら》はやっぱり出来ないんだよ。まだ二番の問題で、ひっかかっているんだ。君教えてやり給え。
級長 よし。蝦原、どこまでやったんだ、あっ、これじゃ駄目なんだ。君は公式を忘れているんだ。だから出来ないんだ。さっき教えてやったじゃないか。Aの二乗《にじょう》、マイナス、Bの二乗を因数分解《いんすうぶんかい》すると、さあどうなる?
蝦原 えーとAの二乗、マイナス、Bの二乗はえーとえーとえーえー。
級長 早く思いだし給え、おい蝦原、キャラメルを喰べたかないかい、ほらこんなにいい色をしているよ。
蝦原 喰べたいよ。それを喰べると、公式を思いだすかも知れない。
級長 駄目駄目思い出さなきゃ絶対にやらないよ。あっそうだ、君に頑張ってもらうため、おまけを一つつけるよ。ほらチョコレート一つおまけだ、チョコレート喰べたかないかい。
蝦原 喰べたいよ喰べたいよ、口の中にツバがたまってきたよ。ああたまんない、目の毒だ。目をつぶっちゃおう。Aの二乗、マイナス、Bの二乗はえーーと、えーと、AマイナスBの二乗……じゃないや、AマイナスBとそれからキャラメル、いやちがった。ええうーんあっ、そうだ、わかったわ
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