れはじゃ、近来宿題をやらせても大分出来が悪いし、試験をやっても、これまた答案の出来が悪い。どうもこれは困った傾向じゃ。
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生徒一同。しーんとしている(間)
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先生 (励声《れいせい》一番)これ思うに、このクラスの皆が戦争ごっこに夢中になっていて、勉強の方をとんと怠《おこた》っているからじゃと思う。戦争ごっこ、必ずしも悪くはない。しかし勉強を第一とせんけりゃならん。お前たちはまずなによりも生徒であるのじゃからな。出征兵士は敵兵をたおすのが任務であるごとく、生徒は勉強するのが任務じゃ。お前たち第二国民が今勉強を怠って居ると次の時代に於いてこれがどんな風に響くと思うか。次の時代に戦争が起ったときにゃ、不勉強のおかげで敵軍を撃破するに足る優秀な戦車が出来なかったり、また優秀な飛行機が作れなかったりして、べそをかかんけりゃならん。つまり学問の力で外国に負けるぞ。まことに由々《ゆゆ》しき一大事《いちだいじ》ではないか。
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廊下にあわただしき靴音、扉《ドア》ひらく音。
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給仕 (息をはずませながら)あ、大山先生。お宅から電話です。すぐお帰り下さい、ですって。
先生 (おどろき)ええっ、な、な、なにごとか起ったというのか。
給仕 先生のお宅で赤ちゃんが生れそうですって。
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生徒一同、うわーっと喚声《かんせい》をあげ机を叩き床を踏みならす。
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先生 えっ。とうとう始まったか。それはまことに由々しき一大事。
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生徒一同うわーっ。
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先生 これこれ(と生徒を制しながら)皆よろこんでくれ、先生のところでは十五年ぶりに、ついに赤ん坊が生れるのだ。神様が赤ん坊をさずけたもうたのだ。戦争で、尊《とうと》い兵士は死ぬ、国力は減る、それを補《おぎな》うのは赤ん坊の誕生だ、笑い事ではない。先生の家には留守番がないのだ。ちょっといってくる、静粛《せいしゅく》にしているんだぞ。
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先生の靴音去る、扉の音。
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