から。
老教 うむ、なるほど。
青木 そのうちに卵はだんだん水につかって落ちます。水面の世界ではこれがどんな風に見えるでしょうか。いきなり目の前に一つの点が現われたと思う中《うち》に、それが見る見るおおきく円形《えんけい》になって広がってゆく。そして遂《つい》にその円形が最大値に達すると、今度は逆に小さくなって行きます。つまり卵が半分以上水につかると胴が細くなるから、水面に接している面積が小さくなってゆくのです。その中に遂に点になり、そして消《き》え失《う》せます。水面の世界では、卵が落ちていったんだとは知らない。はじめは目の前に点が現われ、それが見る見る大きく拡《ひろが》ってゆくと見る間に今度はどんどん小さくなりはじめ、やがてぱっと消えて了《しま》った。何だか訳が分らないものを見た。これこそ予《かね》て聞き及んだ幽霊というものだろうと思うでしょう。
老教 ごたごたした云い方《かた》じゃが、まあそのへんだろうね。それからどうなる。
青木 それから……今度は我々の立体世界に現われる幽霊を証明します。我々人間は縦《たて》、横、高さの三つしか知らないが、今ここに、もう一つなにか人間の感じないものを備えている超立体世界《ちょうりったいせかい》があったとしましょう。この超立体世界の卵かなんかが、いま突然我々の目の前をとおりぬけたとしたら、それはどんな風に見えるでしょうか。まず、はじめはぽつんと点があらわれますね。それが見る見る膨《ふく》れてやがてゴム毬《まり》のようになり、更にだんだんおおきくなって、ガス・タンク位になりました。と思うと、今度はどんどん縮《ちぢ》みはじめて、あれよあれよといううちに、元のゴム毬位の大きさになり、やがてぱっと消えてしまいました。さあ人間はびっくり仰天《ぎょうてん》、これをなんていうでしょうか「ああ、わしは今そこで幽霊を見たよ」って!
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つまり、超立体世界のものが我々の立体世界に交《まじ》わると、それが幽霊に見えるのです。
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△幽霊の消える擬音《ぎおん》と怪奇《かいき》音楽よろしくあって……。
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第三景 受験生の親達
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△遠くでラジオが聞えだす。(浪花節《なにわぶし》か義太夫《ぎだゆう》
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