た。そのような危機《ピンチ》を、白石右策博士は見事にすくったのだった。柿丘にしてみれば、博士に救われたのは、病気ばかりではなく、彼の社会的地位も、彼の家庭も、彼の財産も、ことごとく博士の手によって同時に救われたことになるのだった。博士のサナトリューム療院から退院するという日、柿丘は博士の足許にひれふして、潸然《さんぜん》たる泪《なみだ》のうちに、しばらくは面をあげることができないほどだった。
柿丘秋郎と白石博士との両家庭が、非常に親しい交際《つきあい》をするようになったのは、実にこうした事情に端《たん》を発していた。
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この二組の夫婦は、しばしば一緒になってお茶の会をしたり、その頃|流行《はや》り出したばかりの麻雀《マージャン》を四人で打ったり、日曜日の午後などには三浦《みうら》三崎《みさき》の方面へドライヴしてはゴルフに興《きょう》じたり、よその見る眼も睦《むつま》じい四人連れだった。しかしながら、博士と雪子夫人と、柿丘と呉子《くれこ》さんとの関係は、いつまでもそう単純ではあり得なかった。
そのことを始めて僕が知ったのは、或る夏の終り近い一日だった。雪子夫人
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