方で逃げるのだった。だが吾が白石博士の場合にかぎり、どんな重症の患者も喜んで入院を許したばかりではなく、博士独得の病巣固化法《びょうそうこかほう》によって、かなり高率の回復成績をあげていたのだった。それは世間によく知られているカルシウム粉末を患者の鼻の孔から吸入させて、病巣に石灰壁《せっかいへき》を作る方法と些《いささ》か似ているが、白石博士の固化法では、病巣の第一層を、或る有機物から成る新発明の材料でもって、強靱《きょうじん》でしかも可撓《かとう》な密着壁膜《みっちゃくへきまく》をつくり、その上に第二層として更に黄金《おうごん》の粉末をもって鍍金《ときん》し、病菌の活躍を封鎖したのだった。
この白石博士を、柿丘秋郎は恩人と仰いでいると、茲《ここ》に誌したが、柿丘も実は博士のこの新療法によって、更生の幸福を掴《つか》んだ一人だった。そして柿丘が、もう一ヶ月遅く、博士の病院の門をくぐるか、乃至《ないし》はもう一ヶ月速く博士の診断を仰《あお》いだとしたら、彼は更生《こうせい》の機会を遂に永遠に喪ったことだろう。それと云うのが、博士がこの新療法に確信を得たばっかりのところへ柿丘は馳けつけた
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