すると、全身がガタガタと震えだして、いくら腕を抑《おさ》えつけても、已《や》むということなく、終《つい》には、実験室全体が大地震《おおじしん》になったかのように、グラグラ振動をはじめたと錯覚《さっかく》をおこした。灼《や》けつくような高熱が、全身から噴《ふ》きだした。
「奔馬性結核《ほんませいけっかく》!」
彼は床の上に転倒しながら、ハッキリ彼自身の急変を云いあてたのだった。
4
吾が柿丘秋郎は、なんという不運な男であったことだろう!
折角《せっかく》苦心に苦心を重ねた牝豚夫人の堕胎術には成功したのだったが、その夜彼は突如として大喀血《だいかっけつ》に襲われ、急に四十度を超える高熱にとりつかれて床についてしまった。彼の意識は、もうかなり朦朧《もうろう》としてしまったが、吸入の酸素瓦斯《さんそガス》を、もっと強く出してくれるようにということと、どんなことがあっても主治医である白石博士を呼んではならないということを、家人に要求したのだった。何故に名医白石博士を謝絶したのであるか。生命をかけてまで、排撃《はいげき》したのであるか。
それについて、柿丘は遂に言葉をつぎ
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