《と》に角《かく》、うまく行った。真逆《まさか》、なにがなんでも、音響振動で夫人に堕胎をさせたとは、気がつくまい。胎児さえ流れてしまえば、もうこちらのものだ。おい柿丘、お前の勝利だぞ。一つ大きい声で愉快に笑え!)
そう自分の心を激励したものの、声を出そうとしても、胸が抑えつけられるようで、思うようにはならなかった。気がつくと、咽喉の下あたりと思われるあたりに、何か南瓜《かぼちゃ》のようなものが閊《つか》えるようで、気持がわるかった。そいつを吐こうと思って、顎《あご》をグッと前に伸ばす途端《とたん》に、咽喉の奥が急にむずがゆくなってエヘンと咳《せ》いたらば、ドッと温いものが膝頭《ひざがしら》の前にとび出してきた。
「こいつは、失敗《しま》った!」
柿丘秋郎には、普通の眼には見えない胸の奥底《おくそこ》がハッキリ見えた。そのうちにも、あとからあとへと激しい咳《せき》に襲われそのたびにドッドッと、鮮血《せんけつ》を吐き散らした。柿丘の前の血溜《ちたま》りは、見る見るうちに二倍になり三倍になりして拡《ひろま》って行った。それとともに、なんとも云えない忌《い》やな、だるい気持に襲われてきた。
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