。だが、その外貌に、それと肯く分別臭《ふんべつくさ》さはあっても、凡《およ》そ彼女の肉体の上には、どこにもそのように多い数字に相応《ふさ》わしいところが見当らなかったのだった。とりわけ、頸筋《くびすじ》から胸へかけての曲線は、世にもあでやかなスロープをなし、その二の腕といわず下肢《かし》といわず、牛乳をたっぷり含ませたかのように色は白くムチムチと肥え、もし一本の指でその辺を軽く押したとすると、最初は軟い餅でも突いたかのようにグッと凹《くぼ》みができるが、軈《やが》てその指尖《ゆびさき》の下の方から揉《も》みほぐすような挑《いど》んでくるような、なんとも云えない怪しい弾力が働きかけてくるのだった。それにまだ一度も子供を産んだことのない牝豚夫人は、この数年来生理的な関係か、きめの細かい皮膚の下に更に蒼白い脂肪層の何ミリかを増したようだった。夫人が急に顔を近付けると、彼女のふくよかな乳房と真赤な襦袢《じゅばん》との狭い隙間から、ムッと咽《むせ》ぶような官能的な香気が、たち昇ってくるのだった。
 柿丘秋郎が、こんな妖花《ようか》に係《かかわ》るようになったのは、彼の不運ともいうべきだろう。柿丘
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