ひ》来《きた》る夜《よ》を紅閨《こうけい》に擁《よう》することの許された吾が友人柿丘秋郎こそは、世の中で一番不足のない果報者中《かほうものちゅう》の果報者だと云わなければならないのだった。若《も》し僕が、仮りに柿丘秋郎の地位を与えられていたとしたら――おお、そう妄想《もうそう》したばっかりでも、なんという甘い刺戟《しげき》に誘われることか――僕は呉子さんのために、エジプト風の宮殿を建て、珠玉《しゅぎょく》を鏤《ちりば》めた翡翠色《ひすいいろ》の王座に招《しょう》じ、若し男性用の貞操帯というものがあったなら、僕は自らそれを締めてその鍵を、呉子女王の胸に懸け、常は淡紅色《たんこうしょく》の垂幕《たれまく》を距《へだ》てて遙かに三拝九拝し、奴隷の如くに仕えることも決して厭《いと》わないであろう。しかしながら友人柿丘秋郎の場合にあっては、なんというその身識らずの貪慾者《どんよくもの》であろう。彼は、もう一人の牝豚夫人《めぶたふじん》という痴《ねたま》れものと、切るに切られぬ醜関係を生じてしまったのだった。
 その牝豚夫人は、白石雪子《しらいしゆきこ》と云って、柿丘よりも二つ歳上の三十七歳だった
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