を澄ましてきいていると、なにかこう、牧歌的《ぼくかてき》な素朴な音色があるのです」
柿丘秋郎は、捉《とら》えた鼠を嬲《なぶ》ってよろこぶ猫のような快味を覚えながら、着々とその奇怪な実験の順序を追っていったことだった。
「まアいいのねえ、早くやって頂戴な」
と恐ろしい呪《のろ》いの爪が、おのれの身の上に降るとも知らない様子で、雪子女史は実験を待ち佗《わび》るのだった。
「では始めますよ。ほーら、こんな具合なんです……」
柿丘は右手の指尖《ゆびさき》でもって、押釦をグッとおしこんだ。忽《たちま》ち鈍いウウーンという幅の広い響きが室内に起ったが、その音は大変力の無い音のようで居て、その癖に、永く聴いているとなにかこう腹の中に爬虫類《はちゅうるい》の動物が居て、そいつがムクムクと動き出し内蔵を鋭い牙でもって内側からチクチクと喰いつくような感じがして、流石《さすが》に柿丘も不愉快になった。だが手軽くこの音響をやめては、折角の堕胎作用も十分な効目を奏さないことだろうと思って、我慢に我慢をして押釦から指尖を離さなかった。
「なんだか、やけに地味な音なのねえ」
「どうです、この牧歌的《ぼっかてき
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