、今夜はどうかなすったんですか、お顔の色が、すこし良くないようですね」
「あら、そお。そんなに悪い?」
「なんともないんですか」
「そう云われると、今朝起きたときから、頭がピリピリ痛いようでしたわ。きっと、芯《しん》が疲れきっているのねえ」
「用心しないといけませんよ。今夜はなる可《べ》く早くおかえりになっておやすみなさい」
「ええ、ありがとう、秋郎さん」
 そう云って、夫人はそっと額に手をやった。夫人は、巧みにも柿丘の陰謀から出た暗示に罹《かか》ってしまったのだった。
 それから柿丘は、室内を一《ひ》と巡《めぐ》り夫人を案内して廻った。最後に二人が並んで立ったのは、例の奇怪なる振動を出すという音響器の前だった。柿丘は出鱈目《でたらめ》の実験目的を説明したうえで、右手を押釦《おしボタン》の前に、左手を、振動を僅かの範囲に変えることの出来る装置の把手《ハンドル》に懸けた。これは、万一計算が多少の間違いをもっていたときにも、この把手をまわすことによって振動数を変え、例の恐ろしい目的を果そうという仕組みだった。
「じゃ、ちょっと、その音響を出してみますよ。たいへん奇妙な調子の音ですが、よく耳
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