れもした。しかし自らの智恵ぶくろの大きいことに信念をもつ柿丘は、なにかしら屹度《きっと》、素晴らしい手段がみつかるだろうと考えた。
 彼は、或る時は図書館に立《た》て籠《こも》って、沢山の書籍の中をあさり、また或る時はそれとなく医学者の講演会や、座談の席上に聞き耳をたてて、その方法を模索《もさく》したのだった。夫人を美酒《びしゅ》に酔わせるか、鴉片《あへん》をつめた水管の味に正体を失わせるか、それとも夫人の安心をかちえたエクスタシーの直後の陶酔境《とうすいきょう》に乗《じょう》じて、堕胎手術を加えようか、などと考えたけれど夫人はいつも神経過敏で、容易に前後不覚《ぜんごふかく》に陥《おちい》らなかったので、手術を加えても、その途中の疼痛《とうつう》は、それと忽《たちま》ち気がつくことだろうと予測された。一度夫人に、手術を加えたことを嗅ぎつけられたが最後、すべては地獄へ急行するにきまっていることだった。なんとかして、雪子夫人が、全く気のつかないうちに、それは手術であるとも、彼の持った毒物であるとも感付かないように、極めて自然にことをはこばなければならないのだった。それは、いかに叡智《えいち
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