さんは、柿丘の言葉に、これッぱかりの疑惑《ぎわく》もさしはさまなかった。一日のほとんど大部分の時間を、家庭の外で暮す主人を、実験室とはいえ自邸の一隅《いちぐう》にとどめることの出来るのは何となく気強いことだったし、食事についても、何くれとなく情《じょう》の籠《こも》った手料理などをすすめることが出来ることを考えて、大変嬉しく思ったほどだった。
しかし、ありようを言えば、これは柿丘秋郎の奇怪きわまる陰謀にもとづく実験が、軈《やが》て開始されようとするのに外ならなかった。さて其の実験というのは、――
さきに、雪子夫人から威嚇《いかく》されて、堕胎手術をはねつけられた柿丘秋郎は、その後、このことを思いとどまったかのように見せていたが、内心は全く反対で、あの時、夫人の深情《しんじょう》と執拗《しつよう》な計画とを知ったときに、これはどんな犠牲を払っても、堕胎を実行しなければならないと思った。その方法も、夫人の生命をおびやかすものであってもならないし、しかも夫人が全く気のつかぬ方法でないと駄目である。それは、たいへんに困難な方法だ。いや一体、そのような方法があるものか無いものか、それが案ぜら
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