電気装置が働いて、室内の空気が、外気と巧みに置換《ちかん》せられているせいだったかも知れない。三重|壁体《へきたい》も完成すると、機械台がいく台も担《かつ》ぎこまれ、そのあとから、一台のトラックが、丁寧な保護枠《ほごわく》をかけた器械類を満載《まんさい》して到着した。若い技師らしい一人が、職工を指揮して三日ばかりで、それ等の器械類をとりつけると、折から、講演先から帰ってきた柿丘秋郎に、委細の説明をしたあとで、挨拶をして引上げて行った。
 一体これから此の部屋で、何が始まろうというのだ。
 柿丘が呉子さんに説明したところによると、今回協会の奨励金《しょうれいきん》を貰って、旅順《りょじゅん》大学の東京派遣研究班が、主として音響学について研究するということに決定《きま》ったそうで、それには実験室を建てねばならないが、適当な地所が見付からないために、これも社会奉仕の一助として、柿丘は自分の邸内の一部を貸しあたえることにしたそうである。かたがた、柿丘自身も、かねてから、科学というものに大きい憧《あこが》れを持っていたこととて、これを機会に、初等科的な実験から習いはじめるという話だった。
 呉子
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