れないにしても、一つの生霊《せいれい》を自《みずか》ら手を下して暗闇《やみ》から暗闇《やみ》にやってしまうなんて、残酷な方! ああ、人殺し……」
「大きい声をしないで下さい。どうしてこれだけ僕が説明をするのに判ってくれないんです。貴女が僕の胤《たね》を宿《やど》したということが判ったなら、僕は一体どうなると思うのです。社会的地位も名声も、灰のように飛んでしまいます。そうなると貴女とだって、今までのように贅沢《ぜいたく》な逢《あ》う瀬《せ》を楽しむことが出来なくなるじゃありませんか。僕の病気が再発しても、最早《もはや》博士は救って下さいません。それを考えて、僕は愛していて下さるのだったら、僕の言うことを聞きいれて、この簡単な堕胎手術をうけて下さい」
「何度おっしゃっても無駄よ、あたしはもう決心しているのよ。あたしがお胎《なか》にもっている可愛いい坊やを、大事に育てるんです」
「ああ、それでは、博士を偽《いつわ》って、博士の子として育てようというのですか」
「まア、どうしてそんなことが……。右策《うさく》とあたしとの間に子供が無かったのは、右策自身が子胤《こだね》をもちあわさないからおこっ
前へ
次へ
全42ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング