たちまち激しい振動をおこし、揚句《あげく》の果《はて》に彼と夫人との間にできた胎児《たいじ》が、ポロッと子宮壁《しきゅうへき》から剥《はが》れおちて外部へ流れ出し、完全に堕胎の目的を達しようというのだった。
この世にも奇抜な惨忍きわまる方法を見つけだした柿丘秋郎は室内を跳《は》ねまわって歓喜したことだった。彼は二万円近くの金を犠牲にし、旅順大学の研究班をダシにつかって、その邸内《ていない》の一隅《いちぐう》に、実験室外には音響の洩れないという防音室を建て、多くの備付器械《そなえつけきかい》のうちに、予《あらかじ》め、子宮の寸法から振動数をきめて、そのような都合のよい音を出す器械を混ぜて購入したのだった。その機械の据付も終った。器械は、彼が操《あやつ》るのに便利なように、一切の複雑な仕掛けを排し、押釦《おしボタン》一つをグッと押せば、それで例の恐ろしい振動が出るように作らせることを忘れなかった。もっともこの器械を作った人は、魔人のような彼の使用目的をすこしも知らなかったのだった。
さてこの上は、何とか言葉をかけて、雪子夫人をこの実験室に引き入れることができればよいのだった。それはなんの造作《ぞうさ》もないことだった。彼が唯一言、夫人にむかって、「奥さん、例の旅順大学に使わせる実験室がすっかり出来上って、今日の夕方までには、机も器械も全部とりつけが出来るんですよ」とさえ云えばよかった。あとは夫人の方で心得て、
「あら、そお。それじゃ、あたし夜分《やぶん》に、ちょっと、お寄りするわ。ね、いいでしょう、あなた」
と云うに違いないのだった。そして事実はすべてその筋書どおりに、とりはこばれたのだった。時計が七時をうつと、実験室の扉《ドア》がコトコトと打ち鳴らされた。室内にひとりで待ちかまえていた柿丘は、その音を聞くと、ニヤリと薄気味の悪い嗤《わら》いをうかべて、やおら、椅子の上から立ちあがった。
内部から柿丘が扉《ドア》を開くと、とびつくようにしてよろめきながら、雪子夫人が入ってきた。
「貴女お独り?」
と、柿丘はきいた、念のために……。
「ええ独りなのよ。どうしてさ、ああ、奥さんのことなの。奥さんなら、いまちょいとお仕事が、おあんなさるのですって」
雪子夫人は、お饒舌《しゃべり》をしたあとで、娼婦《しょうふ》のように、いやらしいウインクを見せたのだった。
「奥さん
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