。
かういふことを心靈は述べるので、それを信じて自ら生命を縮め、自殺によつて死後の世界へ出發した私の友人がある。彼は勝れた技術者であつたが、心靈研究に凝り出し、本當に價値ある世界――すなはち死後の世界のことだが、そこへ早く乘りこんで、心靈科學を確立させるのが賢明であると氣がつき、そこで自らの生命を斷つたのである。そして私たち友人にも遺言して、一日も早く自分と同じ氣持となり、次の世界へ突入することを諄々として薦めてあつた。
彼の場合、死後の世界へ引きつける重大な力が、その外にもあつた。それは彼の妻君が既に死んでゐたのである。娑婆には彼と、女兒とが殘つてゐた。彼はたいへんな愛妻家であつて、妻君に死に別れてからも、短歌や詩に託して妻君を想い偲ぶのであつた。この妻君の心靈を彼は呼び出したのである。
これが彼に大きな歡喜を與へた。靈媒の肉體を通じて話しかけて來る相手は、たしかに亡妻の心靈に違ひなかつた。別の言葉でいふと、それが彼は亡妻の心靈に違ひないと思つたのである。
彼は自決するまでに、七十數囘もその心靈研究會へ通つて、亡妻の心靈と語り合つてゐる。彼は、有能な技術者であり、その方面では
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