とき、靈媒にも會つたが、彼女はたいへん狼狽して、
『私は、實驗が終つてから、あの方に、いくども御注意したんです。どうかお間違ひをなさらないやうに。亡くなつた奧さんがどんなことを仰有らうと、あなたは自殺なんかなすつてはいけませんよと、懇々と御注意しておいたんですがね』と、殘念がつた。
 會の主事は主事で、澁い顏を振りながら、『どうもわしたちの見てゐたところでは、あの方は少し深入りしすぎて居られるやうぢや、間違ひがなければいいがなと、心配してゐたところへ、こんどの事件です。おどろきました』と、述懷した。
 友人の遺書には、『いづれ次の世界へ行つたら、心靈科學を確立し、君たちに對して通信を行ふから、待つてゐるやうに』といふことであつた。だが、彼の死後、もう十五年以上の歳月が流れたが、今もつて彼からの靈界通信に接しない。
 近來、心靈研究が又盛んになつて來たといふ話を聞く。今度流行りだしたものは、私が先に經驗したものとは、又色合の變つたものであらうと思ふ。
 私のやうな淺學菲才な者には、果して心靈が存在するのやら、靈媒が本物かインチキか、そのいづれか分らない。しかし本物の靈媒も時には商賣氣が出
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