の二人だけだ。ほんとに心おきなく、しんみりと樂しい對談が出來るのだ。妻はいろいろと思ひ出して、喜んだり懷しがつたり泣いたりする。僕は今幸福だよ』
私は質問した。
『そんな甘つたるい話を續けて、靈媒さんに恥かしくないのかい』
すると彼は應へた。
『靈媒が居るなんて、そんな意識はないよ。亡妻と僕と二人切りの世界なんだ。二人がどんな甘つたるい話をしようと、氣がねは全くないんだ。だから妻も、昂奮してくると、僕の方へ凭れかかつて來るよ』
『それはたいへんだね。靈媒が倒れて、目をさましやしないかい』
『手をしつかり握り合つてゐるから、そんな心配はない』
『ふーン、それはどうも』
私は、靈媒と手を握り合つて語らふなどといふ心靈實驗があることを、この時始めて耳にしたので愕いた。
それにしても、この友人の代りに、私がさういふ状況でもつて、脂ぎつた女の靈媒と喋々喃々の時間を、他に人氣のない夜の部屋で續けてゐたら、俗人らしい間違ひをしでかしたかも知れないと思ふ。
とにかく、その友人は、やがて自殺した。自殺するよ、と彼は私たちに豫告してゐた。しかしそれはにこにこと冗談めいて語られるので、誰も本當にし
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