れ以後は、彼はますます熱心に心靈研究會へ通ふやうになつた。
 彼の亡妻の心靈が乘り移る靈媒は、當時靈媒として最高の評判のある人だつた。その人は中年の婦人で、やや肥滿し、青白い艷々とした皮膚を持つてゐた。家は近畿地方に在り、暮しはいいところの有夫の婦人であつたが、出張の日がかなり多くて、郷里には殆んど居ないやうであつた。
 この靈媒女は、始めの頃は、夜間に限り招靈實驗を引受けた。部屋は電燈を消し、うす赤いネオン燈一個の光の中で、實驗をした。指導者の手を借りてでないと、彼女は無我の境に入ることが出來なかつた。
 右に述べた愛妻家の友人は七十何囘もこの靈媒女を通じて亡妻と語り合つたが、その後半に至つては、靈媒女は指導者を必要とせず自分で無我の境にはいれた。從つて第三者たる指導者も不用で、靈媒と例の友人の二人だけが對座して、綿々たる夜語りに時間を送つたのである。
 その友人は、にこやかな顏を私に向けて、語つた。
『僕と亡妻の對談時間は一時間以上かかるのでね、主事は一番後に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてくれといふ。だから始まるのは、いつも夜の十時頃になる。二階の部屋には、靈媒と僕
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