天駆の行方を厳探《げんたん》に附す一方、非常線はものものしく張られた。
また、事件当夜、かの被害者安東仁雄の足取が詳しく調べられ、そして当夜彼がすこしでも事件に関係があるのではないかと思った事項について厳重な調べがなされた。
だが、烏啼の所在は判明せず、安東の心臓がどこにあるのか、またどうなったのかについても得るところがなかった。そして事件はようやく迷宮入りくさい観を呈するに至った。
猫背の名探偵猫々は何をしていたか。
彼は、安東が心臓を盗まれて後、はじめて安東に近づいた人物であり、且つ遺棄された被害者を初めて発見した人物であるというところから、心臓盗難事件の主役ではないかという嫌疑を多少もたれたため、四五日検察当局の中に泊めておかれた。
だが彼は格別にそれに憤慨するようなこともなく、同じことをいくどでも釈明し、そして穏かにその日数を重ねた。そして最後に嫌疑が晴れて自由の身となることが出来たが、たちまち新聞記者連の包囲にあわねばならなかった。
「あんたは心臓盗人としての嫌疑を受けて拘束せられていたのか」
「そうではありません。当局はわしを、烏啼の賊から保護するために泊めておい
前へ
次へ
全23ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング