もせず、不思議がりもせず、朦朧《もうろう》たる酔眼《すいがん》の色をかえもせず、依然として酒を浴びるように口の中へ送っている。
「おい烏啼君。この問題についちゃ、君は初めからへまばかりやっているよ。実行に先立ち、なぜもっとよく考えなかったんだ。そうすれば、結果が君の希望と反対になるということが分ったはずだ」
「……」
「いいかね、君は君の恋敵の身体からその心を奪って、恋敵の胸に不細工きわまる代用心臓をぶら下げさせた。それはそういう恰好が今福嬢の嗜好に適しないと考えたからなんだろう。――ところが、実行をしてみると誤算が現われた。ねえ、思い当るだろう」
「……」
「心臓を盗まれた男というんで、恋敵を一躍有名にしてしまった。そればかりか、恋敵の弱い心臓を切取って、その代りに強い代用心臓を取付けてやったもんだから、君の恋敵は俄然《がぜん》男性的と化成して忽《たちま》ち君を恋愛の敗北者へ蹴落しまった[#「蹴落しまった」はママ]。ねえ、分るだろう。つまり君はわざわざ自分を敗北者へ持って行くようなことをしたんだ。バカだねえ」
「ううッ、……」
「本当にバカだよ君は。君の恋敵は強い機械心臓を取付けて貰
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