わ》しいのに、だらだらとくそにもならん話をしてわしを引きつけて置いて……ほう、早く行かにゃ、大先生と約束の時間に、○○へ入市できないぞ」
 博士は腕に嵌《は》めた大きな時計を見、例の大きな三つのトランクを軽々と担ぐと、大急ぎで飛行場を出ていった。
 後を見送ったサービス係は、長大息《ちょうたいそく》と共に小首《こくび》をかしげ、
「でも力のある老人じゃなあ。あの大きいトランクを、軽々と担いでいくとは……」
 金博士の姿は、こんどは埠頭《ふとう》に現れた。幸《さいわ》いに八千|噸《トン》ばかりの濠洲汽船が今出帆しようとしていたところなので、博士はこれ幸いと、船員をつき突ばして、無理やりに乗船して、サロンの中へ陣取った。
「もしもし、どなたかしりませんが、もう船室がありませんので」
 事務長がこわい顔をして博士のところへやって来た。
「船室? 船室はあるじゃないか。このとおり広い部屋があいているじゃないか」
「これはサロンでございまして、船室ではありません。御覧の通り、おやすみになるといたしましても、ベッドもありませんような次第です」
「いや、このソファの上に寝るから、心配しなさんな」

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