それは困ります。では何とか船室を整理いたしまして、ベッドのある部屋を一つ作るでございましょう」
「何とでも勝手にしたまえ。わしは汽船に乗ったという名目《めいもく》さえつけばええのじゃ」
「え、名目と申しますと……」
「それは、こっちの話だ。ときにこの汽船は何時に○○港へ入る予定になっとるかね」
「はい、○○港入港は明後日《みょうごにち》の夕刻《ゆうこく》でございます」
「何じゃ明後日の夕刻? ずいぶん遅いじゃないか。わしは、そんなに待っとられん」
「待っとられないと仰有《おっしゃ》っても、今更予定の時間をどうすることも出来ません」
「ああもうよろしい。わしは明朝《みょうちょう》には○○港着と決めたから、もう何もいわんでよろしい」
「はあ、さいですか」
 金博士のことを、船内では気が変でないと思わない者は、ひとりもなかった。


     3


 金博士のために、第二二二号の船室が明《あ》けられた。
「これは至極《しごく》覚えやすい船室番号じゃわい」
 博士は、又ぞろ三つのトランクをひっさげてその部屋に移った。ボーイが、そのトランクを持とうとしたら、博士は奇声《きせい》を発して叱《しか
前へ 次へ
全26ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング