ら落ちたものですから。ところで大先生、あいつは何をしていますか」
「ああ金のことか。金は今わしたちの部屋で旅の疲れを癒《いや》すため、一寝入《ひとねい》りさせているよ。実は早いところ空気中に睡眠薬をまいて置いたから、金のやつはもう二十分のちには両の瞼《まぶた》がくっついて、それからあと正味《しょうみ》六時間は、死んだようになってぐうぐう睡ることだろう」
「ああそうですか。それは手間《てま》が省けていい。じゃあこの大使館の始末を借りるまでもなく、余《よ》自《みずか》らが彼の寝室に忍びこみ、余自らの青竜刀《せいりゅうとう》を以て、余自らが彼の首をはねてしまいましょう」
「そうするか。わしのためには、可愛いい弟子だったが、悪に魅《みせ》られた今となっては、泪《なみだ》をふるって首を斬ることにするか。おおもう四十分経った。金のやつ、ぐっすり寝こんでいる頃じゃ」
 醤にうまくいいくるめられている王水険大先生は、最高の善事《ぜんじ》をするつもりで、醤を引具《ひきぐ》し、窓下に高梯子《たかばしご》をかけ、それをよじ登って、窓からそっと金博士の様子を窺《うかが》ったのである。
 ところが、寝台は空《か
前へ 次へ
全26ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング