ら》であった。もう一つの寝台も空であった。
「おや、金のやつ、さては逃げたな」
とうとう取逃がしたかと、残念そうに両人が室内を睨《にら》んでいると、ふと目についた物がある。それは一台の小型タンクであった。
「ありゃ、あんなところに、変なものがあるぞ」
「小型タンクなど、誰が持って来たのでしょう」
両人は、不思議に思って、窓から忍びこむと、部屋の真中に置かれてあるタンクに近づいた。
そのタンクは、扉を開こうとしても開かなかった。ただタンクの上に貼紙がしてあった。
「午後四時までこの中《うち》にて熟睡《じゅくすい》する故、何者もわが熟睡を妨《さまた》ぐるなかれ。金博士」
と書いてあった。金博士は、このタンクの中に睡っているのか。そういえばなるほど、どこからか、大きな鼾《いびき》が聞えてくる。
醤と王水険大先生とは、さすがにタンクには手が出しかねて、すごすご退却のほかなかった。だが御両人とも、まさかこの小型タンクが例の金博士の三個のトランクによって構築されたものだとは気がつくまい。金博士の鼾の音は、このとき一段と高くなった。
底本:「海野十三全集 第10巻」三一書房
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