年間に、あの大使館をくぐった者は、総計七千七百七十七人です。ところがあの門を出て来たものがたった四千四百四十四人なんです。不思議じゃありませんか」
「別に不思議とは思われんがのう。算術をすると、すぐ答が出るじゃないか。七千七百七十七人マイナス四千四百四十四人イコール三千三百三十三人と御明算《ごめいさん》が出る。すなわちこの人数たるや、某国大使館内に現に寝泊りしている館員の数である。どうじゃ、簡単な算術ではないか」
「いえ、そうじゃないんで……。あの大使館員は、実数わずかに三百三十二名なんですぞ」
「たった三百三十二名」
「そうです。すなわち、もう一度引き算をいたしまして、三千三百三十三名から引くの三百三十二名は三千一名と答が出来まして、この三千一名なる人間が、奇怪にもあの某国大使館に入ったきり、出ても参らず、館内に生活もして居らずという無理数的《むりすうてき》存在なんです。ですからお客さんも、その無理数の中にお加わりになりませんようにと御注意申上げますような次第で、へい」
「いや、よく分りましたわい。しかしわが金博士に限って、心配は無用でござる。では、さらばさらば」
と、金博士は事務
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