は、わしのあの器械を使えば、汽船もいらないし、飛行機もなくて、ちゃんと快速旅行が出来るのだ。しかしそれをやると、世間の眼についていかんのじゃ。じゃによって、わしは何か尤《もっと》もらしくした乗物に乗ることにしている。それに乗った上で、わしはわしの都合により、あの強力動力装置を組立ててそれを動かし、ちょっと一ひねりやっても、あのような汽船としては快速の部に入る速力を出せるのじゃ。どうじゃ、もうその辺でよろしかろう」
 金博士は、庶民《しょみん》階級がすきだと見えて、いつになく短気を出さず、淳々《じゅんじゅん》として丘へあがった船上で、通俗講演《つうぞくこうえん》を一くさりぶったのであった。
「ああそうそう。某国大使館というのは、どこですかねえ」
 こんどは金博士の方が声をかけた。
「某国大使館なら、ほら、向うの山の麓《ふもと》に、塔の上にきれいな旗がひらひらしている城のような建物がありましょう。あれが某国大使館です。しかしお客さん? あなた、あそこへお出でになるのでしたら、おやめになるようおすすめします」
「そりゃ何故かね」
「何故って、あの大使館は当時評判がよろしくないんで……。過去一
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