ょう。わしは今度は急用でこの○○港にやってきたのでな。商談は、またこの次の機会ということに願います」
 そういって、博士は、重力打消器が入っているトランクを軽々と肩にのせて、歩きだした。すると、何思い出したか、事務長がまた追いかけて来て、
「もし、お客さんへ。もう一つ、伺《うかが》いたいことがあるのです。ちょっとお待ちを……」
「ええい、よく停める男だね。もういい加減《かげん》に放してください」
「私のもう一つ伺いたいことは、この汽船が、機関部とは無関係なすばらしい快速を出して○○市に乗り上げてしまいましたが、あの快速ぶりは、お客さんがそこにお持ちのトランクの内容品と、何か関連があるのですかな」
「ああ、そのことか」
 博士は、そこに立ち停って、
「それは大いに関係ありじゃ。わしが乗らなきゃ、ああは快速が出るものか。あれはつまり、わしが船室内で、このトランクの中に入っている部分品を組合わせて、一つの強力動力装置《きょうりょくどうりょくそうち》を作ったんじゃ。そしてそれを動かしたもんだから、それであのように、二日半もかかるところを一日で来たんじゃ」
「へえ、やっぱり、さいでしたか」
「実
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