長に挨拶すると、舷《ふなべり》をまたいで、傾斜した船側《せんそく》の上を滑《すべ》り台《だい》のように滑って、どさりと百花咲き乱れる花壇の真中に、トランク諸共《もろとも》尻餅《しりもち》をついたのであった。


     5


 なにがさて、気の短い金博士のことであるから、身の危険も、相手方の思惑《おもわく》も考えないで、その足でつかつかと某国大使館の玄関から押し入ったものである。
「大先生《だいせんせい》は居られぬか。王水険《おうすいけん》大先生のお部屋はどこであるか。只今金博士が推参《すいさん》いたしましたぞ」
 とうとう王水険大先生が朝寝坊の居間が、金博士|自《みずか》らの捜索《そうさく》によって発見せられた。
「やややや、お前は金か。お前の来るのは、まだ二三日先だと思って油断をしていたが、やややや、もう来たか」
 王大先生は、喜ぶより前に、愕《おどろ》き且《か》つ呆《あき》れてしまった。
「大先生、おなつかしゅうございますな。ところで、この某国大使館では近々先生の馘《くびき》るという話を御書面《ごしょめん》で承知しましたが、けしからんですなあ。私がこれから某国大使に会いまして
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