は、わざわざ三つのトランクを、もう一度開いて事務長たちに見せてやった。
 道具類は、ちゃんとぎっしり詰まっていた。
「おかしいな」
 事務長は、その中《うち》から、小型のモートルを選んで、取り出した。
「おや、このモートルの重さだけでも、トランクより重いくらいだ。すると、或る重いAなる物品を入れたトランクBの総重量AプラスBプラスアルファは、元のAよりも軽い――というのは、どういう算術になるのかしらん。どうも式が成立たんように思うが」
「おい事務長さん。お前さんは中学校で算術の点が優《ゆう》か秀《しゅう》だったらしいね」
 と博士はいって、
「だが、わしのトランクに関するかぎり、そのような純真《じゅんしん》な算術は成り立たないのだよ。忙《せわ》しいから説明をしていられないが、しかしこれは事実なんだ。つまり、AはAプラスBプラスアルファよりも大なりという場合が有り得るんだ。この解法がお前さんに分ったら、お前さんに人造モルモットを一匹、褒美《ほうび》にあげてもいいよ」
「へえ、そうですかね。しかし私には、とても分りません。なんとか今、説明していってください」
「そうかね、聞きたいかね。それ
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