数えてもきりがないから、もうよしたらどうじゃ。要するに右に述べたものは全部わしの身のまわり品だから、誤解して貰っては困る」
「尤《もっと》も、新品はないから、商品じゃないということは分ります。ではよろしゅうございます。品名だけはノートして置きますが、まず此場《このば》は税金を懸けないで、お通り願うということにいたしましょう」
「ほう、漸《ようや》く話がわかってきたね」
 博士は、その場に引き散らかされた道具を一生けんめい掻《か》き集め、トランクの中に入れて、蓋《ふた》をした。そして軽々と肩に担いだのであった。
「ちょっと待ってください。何だか空《から》のトランクを担いでいられるように見えますね。どれ、ちょっと持たせてみせてください」
 事務長がそのトランクをさげてみると、なるほど空のトランクのように軽い。
「はて、面妖《めんよう》な。あれだけ重い道具を入れて、こんなに軽いとは、まるで手品みたいだ。お客さん、あなたは早いところ、あの道具類をトランクから抜いて、どこかへ隠してしまいましたね」
「冗談いっちゃ困るよ。あの身のまわり品はちゃんと中に入っているよ。ほら、このとおり……」
 金博士
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