てこないのです。トランクの中を調べないと、上陸は不可能です」
「厄介《やっかい》なことを云うねえ。じゃ、今開けるから、お前ちょいと見て置いて、後で税関へ見せるようどこかへ書いておいて貰おう。さあ見てくれ」
そういって金博士は、まるで箱師がトランクを開くような鮮《あざや》かな速さで三つのトランクをぽんぽんぽんと開いてみせた。
「さあ見てくれ」
云い出したからには、事務長、勢いよく赴《おもむ》くところ、何とも仕方がなく、開かれたトランクの内容《ないよう》如何《いかん》と覗《のぞ》きこんだ。が、途端に怪訝《けげん》な面持で、
「もしお客さん。これは税金が相当|懸《かか》りますぞ。いいですか」
「税金なぞかかる筈はない。全部身のまわりの品物だ」
「そうともいえませんね。だって、身のまわり品である筈の洋服もシャツも歯ブラシも見当りませんですぞ。詰め込んであるのは、ラジオの器械のようなものに、ペンチに針金《はりがね》に電池に、それから真空管《しんくうかん》にジャイロスコープに、それからその不思議なモートルにクランク・シャフトに発条《はつじょう》にリベットに高声器《こうせいき》に……」
「いくら
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