っくりかえっていた。右舷《うげん》を見れば、町であった。左舷《さげん》を見ればこれも町であった。これは変だ。やーい、海はどこへいった。
船員たちは、一同揃いも揃ってダブルで気が変になりそうであったが、中に気の強い者もいて、本船の位置について鮮《あざやか》なる判定を下した。
「おい、何といっても、これは、わが汽船は○○港の陸上へのしあげたのだよ。ここは○○市だ」
「そんなべら棒な話があるかい。○○港なら、まだ二日のちじゃないと入港できないんだ」
「馬鹿をいえ。お前たちの目にも、ここが○○市だってぇことが分るはずだ。ほら向うを見ろ。幾度もいってお馴染《なじ》みの木馬館《もくばかん》の塔があそこに見えるじゃないか」
「ははん、こいつは不思議だ。あれはたしかに木馬館だ。するとやっぱり本当かな、わが汽船が○○市に乗りあげたというのは」
そんなことをいっているところへ、船室から金博士が現れた。例の三つのトランクを軽々と担いで、舷《ふなべり》を越えて、花園へ下りようとするから、船員がおどろいて博士の傍《そば》へ飛んでいった。
「そんなところから降りてはいけません。第一、まだ税関《ぜいかん》がやっ
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