それはとても信じられない」
 まだ十九か二十の溌刺たる女性の四股をもちながら、それで九百三歳とは、首肯しかねる。第一、そんな長寿者がいるものだろうか。
「ほほほほ。そんなことをおっしゃると、わたしはたいへん愉快ですわ。千年前の人類が、どんな知能程度だったかということが、いまはっきり目の前に見えるようで、たいへん参考になります」と、しきりにひとりで悦びつつ、「ですけれど、わたしばかりが悦んでいないであなたのため、早く一千年後の今日の世界はどんなになっているかその常識をつけてさしあげましょう」
 といって、チタ教授が、金髪をなでながら話をしたことによると、なんでも人類は、今から九百年前に、死の神を征服したという話だった。つまり人類は、死ななくてもよくなったのだ。なんという大発見であろう。
 なぜ、そんなことになったかというと、人体に関する生理学の研究が進歩して、いっさいの病気が電気学によって診断され、そして電気的療法で癒ることになった。心臓の悪い人間は、すぐ代用心臓にとりかえることができる。血圧の高い人間は、半日ぐらいかければ、すっかり血管をとりかえることができる。だから、もし死ぬのがいや
前へ 次へ
全16ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング