ると先生は田鶴子さんを四年も前からご存じでいらしったんですの」
「私は、正確にいうとそれよりももう三年前から田鶴子なる少女を知っていました。しかし田鶴子は私を何者であるか、知っていないと思います。というのは、田鶴子は古神子爵が経営していた喫茶店の女給みたいなことをしていたんです。私はしばしば感じのいいその喫茶店の入口をくぐりましたがね、この店が古神子爵の経営店であることを知ったのは、ずっと後のことなんです。なにしろ現今ならともかく、その当時は、子爵が喫茶店を経営しているということが知れては大変なことになる時代でしたからね」
「まあ――」
「そのとき格別田鶴子を注意していた訳じゃありませんが、こっちがはっきり四方木田鶴子へ注目するようになったのは、子爵の遭難からです。早くいえば、私は子爵の本家筋にあたる池上侯爵家からの秘密なる依頼で、田鶴子には気付かれないように、秘密裡に彼女を調べたのです。私は常に黒幕のうしろに居り、田鶴子には婦人探偵の錚々《そうそう》たるところの[#「ところの」は底本では「ところを」]数名を当らせたんです。要点は、池上侯爵家からの依嘱により、“もしや四方木田鶴子があの
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