ら、よしましょう。とにかく田川さんの身の上に、何かあったに違いありません」
 帆村は肯きながら、湯沸かしを暖炉の上の熱い鉄板の上に置いた。
「先生、今夜から、わたくしを助手に使って頂きますわ。ご迷惑でも、泊らせて頂きますよ」
「ここへお泊りにならない方がいいですね。でないと結婚を待っていらっしゃるあなたにとって……」
「いえ、先生。わたくしはそんなことを気にしませんし、大丈夫ですわ。それよりも、先生は、この事件に不吉な影がさしていると思うとおっしゃいましたが、それを説明して頂けません」
「困りましたね」
 帆村は元のように椅子に腰を下ろし「……不吉な影といったのは、田川君の手紙にあった四方木田鶴子《よもぎたずこ》という女性のことに関係しているんです。今から四年前のこと、日本アルプスで、私の友人である古神行基《ふるかみゆきもと》という子爵が雪崩《なだれ》のために谿谷深くさらわれて行方不明になりました。救護隊も駆付けましたが、谿が深くて手の施しようがなく、子爵の不運ということになって、空しく引上げましたが、子爵が遭難するとき、彼が同伴していたのが、あの四方木田鶴子だったんです」
「まあ。す
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