そしてわたくしも先生のお伴《とも》をして、捜査に従事したいんです。さもないとわたくしは、不安と孤独感とで気が変になってしまうでしょう。ね、先生、お連れ下さいますわね」
 カズ子が今にも帆村の前に脆《ひざまず》きそうに見えたので、帆村はあわててそだ[#「そだ」に傍点]を掴んで立上った。そして火の子を散らしながら、暖炉の中へ折って入れた。
「だがねえ、春部さん」
 帆村は眉をひそめていった。
「私の予感を正直に申上げると、この田川君の家出事件には不吉な影がさしていると思いますよ。あなたは聰明だから、やはりそれを察して居られるんだと思いますが……」
 田川君の遺書にうたってある一週間の過ぐるのを待たで、この手紙を受取るとすぐ帆村のところへ駆付けたほどに、春部カズ子は聰明な女だ。
「そうなんです。何故とも訳は分らないのに、わたくしはその手紙を読んだとき、足許に踏んでいる大地が崩れて行くような感じを持ったのです。そういういやな気持の経験は、前にも一二度ありました。それはわたくしの父が戦死したその時刻のことです。わたくしは新見附の停留場に立っていましたが……いや、こんなことは事件に関係ないんですか
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