、引手もついていた。そしてその扉には、どういうわけか分らないが「戸ろ」と大きく白ペンキで書いてあった。
左右の壁の金魚槽、右側の壁の中にひそんでいるプロペラまがいの金属体、正面奥の赤い壁と、「戸ろ」と書いた扉! そしてこの横丁だけが、白々とした怪光に照らし出されている!
(一体これはどうしたわけか?)
さすがの帆村も呆然《ぼうぜん》として、しばらくは春部のことも何もかも忘れて、塑像《そぞう》のように突立っていた。
10[#「10」は縦中横]
「先生、奥に何かあるようですわ。奥へ入ってみましょう」
春部の声に、帆村ははっと吾れに戻った。
「あ、危い、待った!」
「ええッ」
「軽率に入ってはいけません。これこそ、この千早館の中の最大の謎なんでしょうから」
「千早館の最大の謎ですって?」
「なんと異様なものばかりが並んでいるじゃありませんか」
と、帆村は出来るだけ低い声でいったつもりであったが、しかしそれはかなり高く響いた。
「綺麗ですわ。趣味はいいとは、思われないけれど……」
「異様ですよ。グロテスクですよ」
「あの金魚のことをおっしゃるのでしょう、白と紫の斑の……呀
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