って泳いでいるのだった。しかもその金魚というのが、珍らしく白と紫の斑のものばかりだった。
 なお、右側の壁だけには、金魚槽の上が深く引込んで横に細長い棚のようになっており、その中によく磨かれたプロペラのようなものが嵌《は》まっていた。だがそれはプロペラではないようで、中心軸はあったが、翼にあたるところはプロペラのように波状をなしておらず、真直に平面的に伸びていた。よく磁針にそういう形をしたものがあるが、もちろんこれは非常に大きく、長さが六七尺もあった。
(一体何だろうか、これは……)
 帆村には、すぐにこの妙な物品の正体が分らなかった。このプロペラの兄弟分のようなものは、その細長い棚の中にじっとひそんでいて、動き出す様子はなかった。
 奇妙なものは、まだ外にもあった。この横丁は、奥で壁につきあたり、そこから通路は左右に分れていたが、その正面突当りの壁が真赤に塗られていることだった。その壁には煉瓦が見えなかった。煉瓦の上に漆喰を塗り、更にその上に赤いペンキを塗ったものらしかった。
 もう一つ奇妙なことは、その正面の赤い壁が、よく見ると扉になっていた。扉の枠が白いペンキで区劃をつけてあるし
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