路は、今までの通路とちがい、ずっと明るさを増した。帆村は、注意の言葉を春部に囁く代りに、彼女の肩を軽く叩いて警戒せよとの合図にした。
二人の歩調は極度に緩《ゆるや》かになった。帆村は全精力を前方に集中している。比較的明るい光が前方の左側から来ることが分った。そのあたりで左へ曲る角があるらしい。しかし右側はそのまま壁が前方に続いていた。その明るさは、雪の降ったような白っぽさがあった。
(あそこまで行けば、必ず何かある)
帆村は洋杖の柄を握りしめ、いつでもそれを繰出せるように身構えて歩を進めた。
とうとうその角まで来た。
「呀《あ》ッ!」
その角のところで、左側へ目を向けた帆村は思わず驚愕の声を放った。何となれば、そこには全く想像も及ばないほどの奇妙な有様が見られたから。
まず何よりも目をひいたのは、その角から左へ切れ込んで、十尺ばかり奥で壁に突当っているその狭い横丁――幅は今までの通路の半分にあたる三尺ほどの狭さだった――。
その横丁の左右の壁の異様な構成だった。その壁は左右とも、人間の眉の高さあたりから床までが硝子ばりになっていて、その中に大きな金魚がゆったりと尾鰭をゆすぶ
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