。さすがの帆村も、二時間目には退屈して下の池まで下りて散歩をした。それから戻って来た彼は、カズ子と、見張りを交替して、池の話をした。
「変った池ですね。水が牛乳のように白いですね。多量に石灰を含んでいる。しかしこの辺は他に石灰質のところを見かけないんだが、あの池だけが石灰質の池なのかなあ。そんなことは有り得ないと思うが……」
そんなことをいわれたので、春部カズ子はその池へ興味を持って、下へ降りていった。
その春部は十五分ほど経つと、息をせいせい[#「せいせい」はママ]切って帆村のところへ駆け登って来た。
「た、大変よ。恐ろしい発見をしたんです。ちょっと来て下さらない、池のところまでですの」
春部はこれまでいつも面憎《つらにく》いほど取澄《とりすま》していたが、このときばかりは若い女子動員のように騒ぎ立てた。
「困りましたね。なにか重大なものを発見したらしいが、この千早館の監視は一秒たりとも中断することが出来ないのです。一体何ですか、あなたの発見したものは……」
「あの人の着ていた服地です」
「えっ、何といいました」
「田川のいつも着ている服の裏地なんです。それがこまかく切られて、
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