たが、帆村は、しばらく自分のすることを見ていれば分るといって、彼の持っていた洋杖《ステッキ》の分解を始めた。
まず洋杖の柄を外し、あとの棒をがたがたやっていると、それはいつの間にか三脚台に変った。次にその洋杖の柄を縦に二つに割ったが、それを見ると、中には筒に入ったレンズやその他いろいろな精巧らしい器具がぎっしり填《つ》まっていた。帆村はその中からいくつかの器具や部品を取出し、それを三脚台の上に取付けた。もう誰の目にもはっきりそれと分る望遠鏡が出来上った。帆村はクランプをまわして望遠鏡の仰角をあげると、その焦点を調整した。
「ああ、千早館をここから監視なさるのね」
「そうです。今、よく見えています。交替で監視を続けましょう。そして、もし誰かが千早館を出入りするようだったら、それはどこから出入りするのか、よく見定めるのです。……しかしこの仕事は退屈ですよ。まず三十分交替としましょう。始めはもちろん私がやります。あなたはそれまでぶらぶらそこらを歩くなり、草の上で仮眠《うたたね》をするなり好きなようになさい」
この仕事が如何に退屈なものであるかは、それからいくばくもなくして二人によく分った
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