窓が、いずれも外から鎧戸でもってぴったりと閉っていて、空気はもちろん明かりも、中へは入るまいと思われた。従って、その窓を通じて、この建物の中に入ることは、まず不可能だと思われた。
「どこにも、忍びこむのに都合のよい窓がありませんね」
館の裏手の雑草の中に立って、帆村はがっかりした声を出した。
「でも、どこかに入口がある筈ですわ」
春部は、先と同じことをいった。
それから二人は、黙《もく》したまま、その場に突立っていた。そのうえいうべき別の言葉を互いに持合わさなかったからである。
が、二人が黙してから間もなく、帆村は愕きの表情になって、突然口を切った。
「あ、気のせいだろうか。地鳴《じな》りがしたようだが……。春部さん、あなたは今、地鳴りを聞きませんでしたか、地鳴りでなければ、エンジンの唸《うな》りを……」
「なんだか聞えましたね。でも、わたくしは奏楽《そうがく》だと思いました」
カズ子は眉をあげて帆村の顔を見上げた。
「奏楽ですって……。はてな、もうなにも音がしないようだ。ふしぎだな」
「わたくしにも、もう聞えません」
「さっきは確かに音がしたんだ。どういうわけだろうか」
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