二人は気味わるさに、背筋に水を浴びたように感じた。
 もしもこのとき、二人が千早館の表側に立っていたとしたら、彼らは意外の収穫を得たであろうに……。それは二人の不運だった。
 だから、それからしばらく経って二人が本館の正面へ廻ったときには、或る事はもう終っていて、何の異常も存しなかった。二人はそこで一先ずここを去ることにして、元の塀の崩れたところから外へ出た。
「あれをごらんなさい」と帆村が洋杖《ステッキ》をあげて、裏口に近い塀の傍に立っている電柱を指した。
「電線があのとおりぷっつり切れています。千早館への電気の供給は、あのとおり電線が切られたとき以来|停《とま》っているのですよ」
「すると、あの建物の中は電灯もつかないから真暗なわけね」
「ま、そうです。従って、さっきわれわれが聞いた音は、配電会社には関係のない音だということになる」
「そんなことが何か重大な事柄なんですの」
「いや、それは私の頭を混乱させるばかりです。うむ、ひょっと[#「ひょっと」は底本では「ひっと」]するとこれもわれらへの挑戦かもしれないぞ」
「挑戦ですって、誰からの挑戦? そんなことは今までにちっとも仰有らなか
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