ついていて、ここ何年かそれらの扉が開かれたことがないのを語っていた。その先を建物についてなおも廻っていると、元の玄関の前へ出た。これで一巡したのである。三四丁もある遠道をしたような気がした。雑草が足をしばしば奪ったせいでそう感じたのかもしれないが……。
「どの戸口も開かれた様子がない。ふしぎだなあ」
と帆村は、春部を振返った。
「でも、これまでにこの千早館を訪れた人は、中へ入ったんでしょう。それならば、どこかに入れる口がある筈ですわねえ」
春部は、中に入らずには引返さない決意と見える。
「その理屈は尤もです。ではその実際的な入口を探しましょう。窓からでも入るのかな」
二人は窓を見上げながら、もう一度千早館の周囲を廻ってみた。
ところが、奇妙なことに、この建物には窓というものが極めて少かった。この大きな建物に、たった六つの窓しかついていなかった。しかもその窓は、背の届くようなところにはなく、地上から四五十尺もある高いところにぽつんぽつんとついていて、それも縦に長い引込んだ窓であって、明かりを取る窓というよりも建物の飾りについている釦《ボタン》のように見えた。
そしてその窓という
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